今年の2月に急性胃腸炎で久々に寝込んだときがあった。
しばらくまともに食べられず、お粥が限度の体調が数日続くと、そのうち頭は食べ物のことでいっぱいになる。
そんなとき、ふっと「喫茶店の焼肉定食が食べたい」という思いが沸き上がった。
それは天啓のように舞い降りたという感じだった。
この時点でもう自分でも制御できないほど、焼肉定食が気になって仕方がない。
そもそも今までそれほど焼肉定食を頼んだこともなく、胃が空っぽになりすぎて脳がバグったとしか思えないのだが、すでに頭は焼肉定食に占められていた。
ベッドからスマホで「和歌山市 喫茶店 焼肉定食」などのキーワードを入れて探し続けた。
そう、私（or私の体）が求めていたのは喫茶店の焼肉定食。
理想は真ん中が鉄板になった木枠のお皿（よくナポリタンが乗ってるやつ）に炒められた肉と野菜がジュウジュウと盛られ、ごはんとお味噌汁などがついたものだ。
決して焼肉屋さんの焼肉定食ではない。（あれもおいしいけれど）
でもネット検索でまず出てきたのは、ほとんどが焼肉屋さんの、いわゆるお肉メインの自分で焼いたりするタイプだった。
ちがう！私が求めているのは昭和的喫茶店のあれ！！
と心で叫びながら検索する日々。
もちろんまだ体はお粥orイオンウォーターしか受けつけていない。
でも「完全に体が治ったらこれを食べるのだ」という執念が、大げさだけど回復への気力となっていた。
そして無事に完全復活した数週間後、私はいそいそと和歌山の老舗洋食店フライヤに出かけた。フライヤはその名のとおり揚げ物メニューが充実している。でも記憶の彼方で焼肉定食っぽいものもあることは知っていた。
今まではスルーして名物のヒレカツやポークチャップなどを頼んでいた私だが、初めて焼肉定食を注文する。来た。数週間ぶりのちゃんとしたご飯に胸が高鳴る。食べた。お、お、おいしい。思わずフルッと小刻みに震えながら「…幸せ」と声が出た。
（興奮しすぎて写真を撮り忘れたことを今も後悔している）
しかしながら、非常においしかったものの、気分的には何か満たされないものがあった。
肝心のメインが、お肉数枚と下にサニーレタスが敷いてあるのみだったのだ。
玉ねぎなどの野菜と炒めた焼肉定食を求めていた私は若干がっかりした。
「よし、次だ」
すっかり体調も胃も絶好調になっていた私は、以前から妹に聞いていたノアハウスを目指した。かなりボリューミーなお店らしい。
外観からもおいしい定食がいっぱいありそうな予感。
が、しかし！
ここに焼肉定食はなかった。うう。代わりに似て非なる豚の生姜焼き定食を注文。
たしかにすごい量だったがおいしすぎて完食した。
夫のデイビッドにも少し分けてあげたら「ジーザス」とつぶやくほど感銘を受けていた。
でも、ますます満たされない思いが募る。
ついこの間まではどこにでもあったはずの喫茶店の焼肉定食はどこに？
手っ取り早いのは昭和的喫茶店に行くことなのだが、私の行動範囲の中で滅多に見かけないのと、町で見かけても入りづらい雰囲気が多くて躊躇していた。
「常連さんばっかりだったらどうしよう」「タバコが苦手だから煙モクモクだったらやだな」という心配もあって突撃できない。
勇気を出していくべきなのだが、心の準備がまだできていなかった。
でも焼肉定食欲が高まりすぎておかしくなりそうだったので、もう自分で作ることにした。
強い味方はこちら。
たまたま近鉄百貨店地下のお肉屋さんで見かけたこのコックさん。いかにもおいしい焼肉定食になりそう。
そして肉と野菜と一緒に炒めるだけで本当においしくできた。
うん、おいしい、これこれ！と一応満足した。
でもやっぱり喫茶店のプロが作った焼肉定食を食べたい気持ちが増すばかり。
そしていま現在（2021年4月）、まだ思い出の中にある理想の焼肉定食に出会えていない。
「食べたい」と思い始めて2ヵ月が経つというのに、ここまで出会えないとは思ってもみなかった。
私的リサーチの結果、特大海老フライで有名な喫茶オリノのネット上のメニューに「焼肉定食」の文字を見つけた。（もう私の眼はサーチライトのように瞬時にその文字をキャッチできるようだ）
でもあそこに行ったらたぶん海老フライを頼みたくなるからどうしよう、と悩んでいる。
昭和的喫茶店って少なくなってるんだなーとつぶやいていたら、年上のいとこが「意外と和歌山にあるよ、私よく行くし」と言っていたので、今度聞いてみようと思う。
いつでも手の届くところにあると思っていると、知らないうちに簡単には出会えなくなってしまう。人生のどこかで似たようなことがあったよね、とその刹那さを感じながら、私の焼肉定食を探す旅は続く。
皆さんも喫茶店で焼肉定食を見かけたらぜひ教えてください。（涙目）
Kana