私は昔から漫画が好きだ。特に少女漫画。
小学生のころから別冊マーガレット(通称、別マ)は母と一緒に買って読んでいて、5才年上のいとこが別冊フレンド(通称、別フレ)を買っていたので、毎月お互いに交換していた。
どちらかというと別マがお気に入りで、くらもちふさこ先生をはじめ、いくえみ綾先生、多田かおる先生など綺羅星のごとく多彩で才能あふれる漫画家の最新作を毎月読んでいた。
いま思えばなんてぜいたくで恵まれた環境だったんだろう。
その中でも大好きだったのがくらもちふさこ先生。
私が読み始めたころに「いつもポケットにショパン」の連載が始まって、毎月夢中になって読んだ。
ちなみに、発売日ちょっと前にフライングで別マをゲットできる近所の本屋があり、そこでは店のおじさんが「誰にも言うたらあかんで…」といってこっそり売ってくれるのだ。友だちの間でも「ヤミの本屋」として知られていた。
小学生ながら背徳感とスリルを感じて、そのプロセスも含めて楽しかった思い出がある。
そんな長年のくらもちファンである私は、2月のある日、Twitterを眺めていてデビュー50周年のくらもちふさこ展が開催されていることを知る。

ギャー!行きたすぎる!!と思ったものの、場所は東京。時は2月。私が住む和歌山にも「まん延防止」が発令されていたし、行かれた方の投稿を泣きながら眺める日々。
しかし大学が春休みになって「まん延防止」も全国解除され、そのタイミングで夫が歌舞伎座に行きたいと言い出した。
最初は、えー、東京?めんどくさいなあ、、と二の足を踏んでいたのだが、「はっ!2泊するならくらもちふさこ展に行けるかも!」と気づき、そのあとの行動が我ながら早かった。
ほぼ2年以上飛行機に乗ってなかったので、ANAのマイレージがたまっていて二人分の交通費が浮く。もう行くしかない。
基本的に引きこもりがちな私には珍しく、あれよあれよというまに東京行きが決まった。
歌舞伎は午後からの部だったので、午前中は夫と別行動にして、くらもちふさこ展をやっている根津に向かった。
ぜんぜん知らなかったのだけど、開催している弥生美術館は東京大学の目の前にあって、とても素敵な雰囲気。


東大前には桜も咲いていて、観る前から「来てよかった~~」とテンションがあがる。
こじんまりした美術館に、珠玉のくらもち作品が展示されている。キャー。
冒頭に目に入ったのは、初期の作品「おしゃべり階段」の主人公「カナ」の表紙イラスト。名前が自分と同じなのも、天パなのも、髪の色が私の好きな緑で塗られていたのもうれしくて、最初から感動してまじまじと見つめてしまった。

じ、時間が足りない…と焦りながら、貴重な原画たちを何度も堪能したくて、回遊魚のようにぐるぐると会場を回る私。
小学生から中学生、高校、大学、そして社会人になった今まで読み続けたくらもち作品と自分を重ね合わせながら観る時間は、なんとも特別なひとときだった。
カラー作品もとても美しく、原画を間近で見る喜びに浸る。
何気なく読んでいた漫画だけど、作家さんの魂がこもっていることをひしひしと感じた。

何より私はくらもち先生の描くいわゆる「くらもち男子」が昔からドンピシャで好みなのだ。
「いつもポケットにショパン」のきしんちゃんに始まり、「いろはにこんぺいと」のトオル、「東京のカサノバ」のちいちゃん、などなど「やっぱいいわあ…」と原画を堪能しながら時を忘れてトリップ。
初期のくらもち男子の特徴として、かっこいいけどちょっと影があっていじわるで、でも根底にやさしさがある。(ああ、うまく言えなくてもどかしい!)
そしてそんなくらもち男子を好きになるヒロインはいつも不器用で自分に自信がなくて(でもおもしろいものを持ってる)、なんか自分に重ねて共感してきたんだな―私、とあらためて感じる。
ヒロインはクラスでも決してカースト上位ではない。自信のなさから空回りな行動をしちゃったりする。
コンプレックスもあるし失敗も多くて落ち込みがち。魅力的なところもたくさんあるのに、活かせてない。
そこをくらもち男子は見てくれていて、最終的に、恋が成就するのだ。(この瞬間がいつも最高に心揺さぶられる…!)
なんというか、予定調和に聞こえるかもしれないけど、くらもち作品は数々の魅力的なキャラクターと物語を通して「あなたを見てくれるひとは必ずいるよ、世界はそんなに悪くないよ」ってことを私に教えてくれてきた気がする。

そんなことをいっぱい感じながら、夫との待ち合わせ場所である銀座の歌舞伎座に向かった。
そして着物を着た独特な雰囲気のアメリカ人(夫です)を見つけたとき、「思えば遠くにきたもんだ…」と現実に戻り遠い目になった。
くらもち男子とは宇宙ほどかけ離れたひと。でも私を見つけてくれてありがとう、という気持ちにもなれた。

そんな久々の東京旅行。無理だと思っていたくらもちふさこ展に行けて、ほんとよかった~!!
なんだかいろんな偶然にありがとう。
あまりにも旅行が久しぶり過ぎて、トラベルキットにずっと(1年以上?)入れっぱなしだったコンタクト液を使ったせいで目が痛くて開けられなくなり(皆さんもお気をつけください…)、銀座で眼科を受診するはめになったけど、それでも東京は楽しかった。

そして偶然にも、くらもち先生の最新作は弓道がテーマ。
漫画を描くにあたってご自分でも弓道を習われたそうだ。(だから細部にわたって超リアル!)
ショップでその漫画「花に染む」のポストカードを購入して、弓道の弓掛(ゆがけ)という手袋ボックスに貼り付けたら、すごくテンションが上がった。お稽古のたびに目にしながら、弓道うまくなりますように~!と願掛けしている。

やはり東京は楽しい。また近いうちに行く。きっと行く!
Kana